リアコが会った
日本のライフスタイリスト その1
幸せな「田舎暮らし」をデザインする松場登美さん
文 リアコ(liakomono.tistory.com)
写真 山本真由美
松場登美さんについて知ったのは、日本のモダンな伝統文化に関心を持ち、取材していた私に、ある朝日新聞の記者が群言堂を紹介してくれたのがきっかけだった。初めて訪ねた群言堂の上野桜木店で、私はどうしても見過ごすことのできないいくつかのキーワードを読み取った。中でも田舎生活に根ざして、生活に必要なモノを作って販売することに幸せを求めている人々の物語だった。そしてそんな人々が提案するライフスタイルの中心に彼女がいる。 松場登美さん。彼女が書いた『群言堂の根のある暮らし~しあわせな田舎石見銀山から』を一気に読んでしまった私は、その感動のさめないうちに彼女に会うため石見銀山へ向かっていた。
群言堂は通称「石見銀山」と知られる島根県大田市大森町生まれの衣類・生活雑貨ブランド。 群言堂の人々は、生まれ育った田舎暮らしの魅力を人口400人足らずのこの町で日本全国へ発信している。驚くことに、好きな仕事を田舎の生活で見つけたビジネスに結びつけ、メッセージとともに伝えていることだ。彼らが伝えるメッセージは、都会の人々が忘れていた生きることの価値やそのあり方について考えさせてくれる。
群言堂を訪ねる道はそれほど難しくなかった。仁川空港で米子空港までは飛行機で1時間10分。米子駅から特急列車で大田駅まで向かった。大田駅では群言堂が経営する宿泊施設・阿部家の峰山さんが出迎えに来てくれた。
石見銀山に着いたのが午後4時30分。山奥の町という本のイメージとは違い、道路はきれいに整備されていて、心が和む雰囲気がまるで別世界のようだった。群言堂本店を中心に古い民家が閑静な伝統の街風景を作り出し、夕焼けに輝いていた。平和で心温まる田舎風景。長い間忘れていた祖母の家に来ているような感傷に浸っていた。阿部家に荷物を置いてから、松場登美さんの仕事場である群言堂本社に向かった。群言堂のワークステーションの入り口には広島から移築した古民家がある。会社のスタッフたちはもちろん、村人が共同で使うこの街のシンボルでもある。
石見銀山にある群言堂は、本社と本店、そして阿部家からなる。どれも日本の古い民家を復元したという点が特徴だ。松場さん一家は、ここで仕事をして生活を営みながら、何を生かし、何を新たに作り出して生きていくべきかを学んだという。それはロハスであり、エコロジーであり、スローライフだった。
群言堂の社訓は「復古創新」。昔のものを蘇らせ新しいものを創り出すという意味だ。松場登美さんは、朽ちかけた空き家6軒を改修する過程で新たな発見をするが、それこそ「復古創新」の喜びだったと振り返る。
「私がここ夫の故郷で暮らすことに決めた30年前まで、今のような状況は夢にも思いませんでした。おそらく私だけでなく、住民の誰も想像できなかったことでしょう。私が大森町に来た当時、この町は古い歴史の中で一番大変な時期でした。私は子育てや家事の傍ら、周りの奥さんたちとパッチワークの小物を作り始め、夫がそれを売りましたが、それが群言堂の前身、ブラハウスの始まりでした。これまで様々な経験から、「なせば成る」という、誰もが知っていながらもなかなか体験できない真理に目覚めました。阿部家も同じです」
彼女は30年間人の住んでいない阿部家を10年かけて改修した。阿部家は1789年に建てられた家で、1975年に島根県文化財に指定されている。 群言堂本店に続き、阿部家も彼女の陣頭指揮のもと、現在のような姿に生まれ変わった。建築を勉強したこともない彼女が町の技術者と力を合わせて、人の住めないと思われていた家をよみがえらせたことは驚きである。普通の人には到底考えられない大変な仕事なのである。10年という長い間、苦労も多かった。しかし、ある程度改修作業が進んだ段階で、彼女はもう一つ重要な事実に気づく。彼女の仕事は単に古びた家を再生させることにとどまらず、そこでの人生を再生することだと。
「私のようにビジネスとはまったく縁のなかった人が、莫大は資金を投じてこれまでやってきましたが、何が自分を突き動かしたのか、そして何が実現可能にしたのか、今でもよくわからないとしか言いようがありません。古い民家には効率で快適な現代建築の利便性はありません。しかし、現代の暮らしには快適さの得る見返りに失った大切な何かがあります」
古い台所や家財道具、焚き火で調理する生活、モノを捨てない習慣、節約の知恵、働くことのありがたさ、自然の神秘に気づき、楽しむこと、平和で素朴な田舎暮らし……。そういったことが、もしかすると都会の人々には馴染み薄いかもしれない。いや、もしかすると余りにも昔に忘れてしまい、不便だという記憶しか残っていないのかもしれない。
しかし、夕闇に包まれた石見銀山。松場登美さんの台所では、これまで忘れられていた古いモノに再び出合える時間が始まる。今でも焚き火でご飯を炊くかまどがあり、食器棚には人にやさしい素材の手作りランチョンマットや布巾、調理器具などがきれいに並べられている。大きな食卓と低い椅子には、閉校になった校舎から持ってきたものだ。彼女の食卓に招待された人々は田舎暮らしの本当の妙味に感動し、彼女の暮らし方に納得し、 群言堂の社訓「復古創新」の生活に魅了される。そして、「なせば成る」という彼女の信念に勇気付けられる。
彼女の台所には「もったいない神様」という特別な神様がいる。いくら古くても捨てずに再利用する彼女の守り神でもある。彼女は古いモノを大事にする。そして、古いモノを現在に見合った形で生かせることを楽しんでいる。
彼女は群言堂のデザイナー。学校で洋裁や裁断を正式に学んだことはない。しかし、昔のイメージを生かして、自分が好きなパターンとスタイルを創り上げている。その確実な差別化に支えられ、今や群言堂は日本の女性の間で注目を集めている。
「最初は雑貨から始まったが、自分の着る服を作るようになりました。既製服は洋服に人の体を合わせるものですが、着物は体型に合わせて様々なシルエットが演出できるという点をヒントにデザインを手がけています。自分がほしいと思う洋服を作り始めましたが、それを着てみた人がとても着心地が良いとほめてくれました」
庶民の生活に根ざした実用性と美しさは、時代を越え人の心に響くと信じている 松場登美さんは、流行とは関係なくいつでも着れて、時代精神を加味したモノづくりがしたかったという。今彼女が注目されている理由は、一人の女性の暮らしの知恵が、地域社会を活気付けるきっかけになったからである。彼女は都会と田舎を対概念のイメージで考えず、都会と共生する田舎暮らしを提案し、都会の生活に疲れた現代人に新しいスタイルを石見銀山の山間から発信している。
*岩見銀山 : 島根県中部の大田市に位置する、金・銀を採掘していた大規模の高山遺跡地。2007年ユネスコにより世界自然遺産に指定された。
*群言堂 : ロハス&スローライフの新しい形。皆が自由に好きなことを表現しながら、新しく良いトレンドを創っていくことを意味する。反語は「一言堂」といい、権力者一人で決めた方向で物事を進めることをいう。 www.gungendo.co.jp
*阿部家 : 築230年の「他郷阿部家」。「他郷」とは中国古語から引用したもので、石見銀山にある阿部家が人々にとってもう一つの故郷になってほしいという気持ちが込められている。 www.takyo-abeke.jp
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